警備ロボットの新型「ugo」(ユーゴー)を大成とMiraが初公開 遠隔操作と自律移動のハイブリッド 実証実験で見えた課題と改良点

総合ビルメンテナンスを手がける⼤成は、アバターロボット「ugo」(ユーゴー)を開発しているMira Roboticsと、アバターロボットを活⽤した警備ソリューションの開発に向けて資本業務提携したことは既報のとおり。その両社が品川シーズンテラスで記者発表会を開催し、警備業務向けに改良を行った「新型のugo」を公開した。

初公開となった警備業務用にブラッシュアップした新型のugo(向かって右)。左は旧型ugo。Mira Robotics 代表取締役CEO 松井健氏と。


最初の実証実験で浮き彫りになった課題

「ugo」はもともと一般家庭での使用を前提に開発されたロボット。洗濯物を畳む作業などがデモで公開されていた。しかし、ロボットよる自動化のニーズはビジネス市場の方が強く、特に清掃・警備業界は人手不足の解消のために期待感が高まっていた。
こうしたことを背景に、両社は昨年、品川シーズンテラスで旧型のugoで実証実験を行い、総合警備業務におけるアバターロボットによる自動化を検証した。その上で明らかになった課題をピックアップ、機能を再検討した上で、警備業務に必要な機能をブラッシュアップして誕生したのが新型のugoだ。

昨年の実証実験で浮き彫りになった旧型ugoの課題

新型ugoには6つの特長がある。

2本のアームの搭載
4WDメカナムホイールの搭載
昇降機能 (作業高が30cm〜165cmに伸び縮み)
マイク・スピーカーを搭載しての遠隔操作
AIの搭載による自律動作
インターネットがあればどこでも操縦可


ugoの6つの特徴

警備ロボットの中には既に開発導入されているモデルもあるが、それら多くのロボットにはアームがないため、カメラを使った監視や警備はできても、腕を使った作業ができない。ugoはアームを使ってモノをつかんだり、施錠の確認、エレベータの呼び出し等ができる。


ugoの移動はメカナムホイール機構を採用している。メカナムホイールの特長は360度、どの方向にでも移動できること。その場で向きを回転することもできる。(旧機種からメカナムを採用していて、新型は改良して継続搭載)


ugoは身長がフレキシプルに変化できる。作業できる稼働高は30cm〜165cmと変化可能。床に落ちているものをつかむこともできる。


カメラを使って遠隔の監視センターなどから確認・視認ができる。また、マイク・スピーカーを搭載しているので、音による以上の検知だけでなく、遠隔地からロボットの周囲の人と会話ができる。


遠隔作業をAIが学習し、作業を習得して自律的に作業できることが増えていく。例えば、巡回監視の場合、最初の実証実験ではすべて遠隔操作で行ったが、次の実証実験では巡回ルートを設定し、自律的に巡回させる機能をテストする。


また、エレベータに乗る動作は既に自律的に行うことができる。アームに指のように突起した部分があり、これを使ってエレベータの呼び出しボタンや行先階の指定を自律的に行うことができる(エレベータとはシステム連携を行わないので、エレベータのメーカーは不問)。

エレベータの呼び出しボタンや、行先階ボタンは自律的に押して乗降することができる

インターネットによる遠隔操作ができるため、ugoの操縦者はビルの所在地から離れた地方や海外からでも作業を行える。ビルの監視センターと遠隔地から操作するロボット監査センターの連携ができる。また、身体的に障がいがある人が操縦者となることもできるため、新しい雇用や障がいのある人の雇用を創出できる可能性がある。


■新型ugoの特徴と実証実験後の大成のインタビュー




新型ugoの改良点

昨年の実証実験を経て、移動が人の歩行速度より遅い(走行性能の向上)、ロボットの背後が見えない、暗い場所だと映像が見えづらい、遠隔操作での操作性の向上、聴覚での情報収集などの課題が浮き彫りになった。

実証実験で浮き彫りになった課題(再掲)

そこで、Mira Roboticsはugoの大幅な改良に着手した。まずはコンパクト化。より小さく、より軽い本体を目指した。軽量化は走行性能の向上につながり、小型化はトイレの個室など、狭い場所も作業可能範囲に含めるためだ。

旧型と新型(右)の主な仕様の比較

旧型と比較するとスリム化や脚部の機構のコンパクト化がわかる

改良の結果、脚部分の小型し、最大幅も43cmから36cmに、奥行きは63cmから56cmにスリム化した。重量も2/3の50kgに軽量化した。改良により速度は1.3km/hから1.5〜4km/hに大幅に高速化した。

脚部には新たにLiDAR(レーザーセンサー)類を追加し、自律走行性能を高めた。

脚部中央にLiDARを追加。その下の両側に配置されている穴は衝突検知センサー。遠隔操作のときであっても、周囲に人や障害物を検知すると停止するしくみを取り入れた

視界の向上のために俯瞰のカメラとLEDライトを増設、LEDライトは暗い建物内でもカメラの映像を観やすくする。

角のように飛び出たステーの上にはLEDライト、その上に前後の俯瞰カメラを備える

その他、環境センサーを装備。環境音、温度、湿度、CO2量、ガスを検知する機能を追加した。

警備センターがugoを遠隔操縦するイメージ

画面は切り替えできる仕様で、この例では俯瞰カメラがメインで、小さなウィンドウ画面で後方の視界が見られるしくみ。操作はゲーム機向けのコントローラを活用している

帽子に前方カメラが内蔵されている。胸部にも複数のレンズセンサー類が見える

■立哨交替

■施設の案内を音声で行う(遠隔操作)

■エレベータなどボタン操作をイメージしたボタン押下のデモ


警備・清掃業務は深刻な人手不足

大成はビルメンテナンス業として60年の実績がある。警備会社が抱える深刻な課題はやはり人手不足だ。政府の試算によれば、2020年は7,406万人いる労働者が2040年には5,978万人に減るとみられている。これは毎月に換算すると5.9万人、毎日2千人の労働者が減っていく計算になるという。20年後の試算とはいえ、現時点から対策を講じないと負のスパイラルに陥ると指摘する。


この状況を背景にビルメンテナンス業界の喫緊の課題として、働き手の減少、採用競争の激化、人件費の上昇をあげた。

大成株式会社 代表取締役 専務 経営企画本部長 加藤憲博氏

大成の加藤氏によれば、コストで見ればひとりのスタッフにかかるコストはロボット約4台分だという。


作業面での目標は、ロボット2台でスタッフひとり分の仕事をこなすレベルに設定し、実証実験を繰り返しながら達成していきたい、警備コストの削減をめざす、とした。現状の課題は走行を含めて「スピード」がまだ遅いこと。一方でロボット導入でまず感じる利点はカメラ画像などで記録が残せること、と語った。


また、今後は単純作業に関してはロボット、ドローン、セキュリティカメラ、サイネージなどを活用しながら、人が判断する部分を人が担当する協働が、将来の警備業務を変えていくとし、3年契約で月額10万円を切るサービス、5年契約で月額6万円程度で提供できることを目指したい、と語り、大成のクライアントでの活用に限らず、ビルメンテナンスや警備業界全般に対して広くサービスを提供していく。

発表会の同日から品川シーズンテラスで新型ugoを使った2回めの実証実験を行い、更なる改良を検討していく。また、「ファーストカスタマーを募集」し、他の場所でも実証実験をおこなって知見を積み上げたい考えだ。改良を重ねた上で、2020年の秋に警備ソリューションとして提供開始する予定だ。

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神崎 洋治

神崎洋治(こうざきようじ) TRISEC International,Inc.代表 「Pepperの衝撃! パーソナルロボットが変える社会とビジネス」(日経BP社)や「人工知能がよ~くわかる本」(秀和システム)の著者。 デジタルカメラ、ロボット、AI、インターネット、セキュリティなどに詳しいテクニカルライター兼コンサルタント。教員免許所有。PC周辺機器メーカーで商品企画、広告、販促、イベント等の責任者を担当。インターネット黎明期に独立してシリコンバレーに渡米。アスキー特派員として海外のベンチャー企業や新製品、各種イベントを取材。日経パソコンや日経ベストPC、月刊アスキー等で連載を執筆したほか、新聞等にも数多く寄稿。IT関連の著書多数(アマゾンの著者ページ)。

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