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 「米中対決」は4脚ロボットの分野でも始まるのか。そう思わせたのは中国Unitree Robotics(ユニツリーロボティクス)。2020年5月に日本でも販売が始まった「Unitree A1」は大きさが中形犬ほどの4脚ロボット。バク宙をこなせる高い運動性能が自慢だ。価格は128万円(税別)と、この種のロボットとしては破格の安さだ(図1)。仮想敵はずばり米Boston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)の4脚ロボ「Spot」。サイズは半分ほどだがその分動きが敏捷で価格はなんと6分の1と格安だ。

図1 米中2社の4脚ロボット
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図1 米中2社の4脚ロボット
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図1 米中2社の4脚ロボット
中国Unitree Roboticsの「Unitree A1」(左)、米Boston Dynamicsの「Spot」(右)。(写真左:日経クロステック、写真右:鹿島建設)

バク宙する中国製4脚ロボット「Unitree A1」(サムネイル画像:中国Unitree Robotics、動画:日経クロステック)

 Boston DynamicsのSpotは高い運動性を備える4脚ロボットの代名詞的存在であるが、オンライン販売は2020年6月に米国で始まったばかり。価格は約800万円(7万4500米ドル)だが既にバックオーダーが数カ月待ちになっているという。Spotは長らく話題が先行していたものの、実は本格的な販売には至っていなかった

* 販売開始に先行し、様々な企業と実証実験や検証を実施している。例えば、鹿島は2019年12月にSpotをトンネル掘削現場へ試験導入。360°カメラを活用して、トンネル掘削の先頭部(切羽)の写真撮影や計器点検などの作業を担えるかの検証をしている。

表1 「Unitree A1」と「Spot」の仕様
製品名Unitree A1Spot
企業名中国Unitree Robotics米Boston Dynamics
価格128万円(税別)から約800万円(7万4500米ドル)
外形寸法
*立脚時
長さ500×幅300×高さ400mm長さ1100×幅500×高さ840mm
本体質量12kg32.5kg
積載質量最大5kg最大14kg
自由度1212
駆動方式電動モーター電動モーター
歩行速度最大3.3m/s最大1.6m/s
登坂角度最大22°最大30°
段差の乗り越え高さ5cm(12cmの事例あり)最大30cm
主なセンサー・Intel RealSense D435×1(前方)
・足先力覚センサー×4
・慣性計測装置(IMU)×1
・ステレオカメラ×5(周囲360°)
など
稼働時間1~2.5時間1.5時間
ソフトウエアUbuntu、ROS、専用の制御APISpot SDK
その他・バク宙も可能な運動性能
・LiDERとJetson TX2を搭載した上位機種「Unitree A1 Explorer」を用意
・IP54相当の防水性能
・360°カメラやLiDER、ロボットアームをオプションで搭載可
TechShare(東京・江東)、中国Unitree Robotics、米Boston Dynamicsの資料を基に日経クロステックが作成

 大きさで比べるとA1はSpotの半分ほど(表1)。ペイロードの大きさやセンサーの数、防水性能といったスペック面では、サイズに余裕があるSpotに軍配が上がる。対するA1最大の武器はSpotの約6分の1という低価格。最大歩行速度もSpotよりもA1が2倍ほど速い。軽くて小柄なことがむしろ有利に働いているようだ。

 A1の運動性能はその姿勢制御技術に支えられているという。4脚それぞれのつま先に力覚センサーを、本体に6軸の慣性計測装置(IMU)を搭載。センサーからのデータを基に重心位置を推定し、各関節の角度を調整して姿勢を保つ。こうして段差や階段といった外乱が大きな場所でもバランスを維持して歩行し続けられるという。

起動する中国製4脚ロボット「Unitree A1」(出所:日経クロステック)

 脚を駆動するサーボモーターはUnitree Roboticsの自社開発(図2)。1本の脚を3個のモーターで駆動する。1個当たりの質量は605g、最大出力トルクは33.5Nm、関節の最大回転速度は21rad/s。外部からの衝撃に耐えるため、回転軸の支持に円筒ころを直行配列するクロスローラーベアリングを採用した。

図2 Unitree A1の関節周辺
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図2 Unitree A1の関節周辺
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図2 Unitree A1の関節周辺
自社開発の高トルクモーターを採用した。1脚当たり3個のモーターを使う。(出所:日経クロステック)