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オフィスビルや病院、商業施設などを対象にしたメンテナンス業界が“ロボット導入元年”を迎えている。人手不足が深刻な「警備」では、ロボットの導入コストが人件費に見合うようになり、「清掃」では新型コロナウイルスの感染対策が導入の契機となっている。さらに新型コロナは殺菌消毒のニーズも生み出し、移動型ロボットの適用領域を広げている。

警備ロボット

ロボ導入で人員半減

 メンテナンス業界において最も深刻な人手不足にさらされているのが警備である。図1に掲げた有効求人倍率はMira Roboticsが厚生労働省の資料などを基に算出したもので、警備業界の有効求人倍率は5.8倍としている。しかし、他社からはもっと大きな数字も聞こえてくる。例えば、2021年2月に東京都が都庁舎で実施した実証実験に採用されたSEQSENSEは「有効求人倍率は17~18倍」 (代表取締役の中村 壮一郎氏)とみている。いずれにせよ、働き方改革が求められる昨今、警備の現場は“待ったなし”の状況にある。

図1 ビルメンテンナンス業界で深刻化する人手不足
図1 ビルメンテンナンス業界で深刻化する人手不足
最近では新型コロナの感染拡大によって、殺菌消毒のニーズも高まっている。「警備」「清掃」「点検」業務において、平均年収に不足人数を掛け合わせた「潜在的な労働市場規模」は、合計で約3000億円に達する。この市場が移動型ロボットのターゲットだ。(図:Mira Roboticsの資料を基に日経クロステックが加筆、データは厚生労働省「一般職業紹介状況(令和2年8月分)について」などより)
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 そうしたなか、ここ1~2年で警備ロボットの現場への導入が、都市部のオフィスビルや空港、大型商業施設などから始まっている(表1)。その背景にあるのは人手不足の解消と、ロボットによる省人化で警備のトータルコスト削減が実現できるようになってきたことがある。

表1 主な警備ロボットの仕様と特長
(写真:各社)
表1 主な警備ロボットの仕様と特長
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 警備の業務は多岐に渡る。主に「立哨(りっしょう)」「巡回」「受付(出入り業者の対応)」「緊急対応」があるが、これに加えて来訪者への「案内」もある。実際には不審者の通報よりも、ビル・施設管理の仕事の方が圧倒的に多い。警備ロボットは、こうした業務の一部、特に立哨や巡回業務を請け負うことで人間の労力を減らすことに貢献する。

 一例として、20階のフロアがあるビルを6人で警備している現場にロボットをどのように導入するのかを紹介しよう(図2)。6人の内訳は、立哨が2人、巡回が2人、防災センターでの映像監視(受付業務を含む)が2人である。交代制で、立哨は2カ所で1カ所当たり1日10時間、巡回は1日3回で合計時間は夜間を含めて12時間に及ぶ。

図2 ロボットの導入で人員半減
図2 ロボットの導入で人員半減
警備ロボットを導入した場合の効果の例。例えば20階のフロアがあるビルの警備に従来は6人必要だったのが、ロボット4台と3人の体制に変更できる。人員を半減しつつ、人は監視や緊急対応、案内など得意とする業務に専念できる。(図:Mira Roboticsの資料を基に日経クロステックが作成)
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 ここにロボットを4台導入し、2台を立哨、2台を巡回させる。一方、警備員は防災センターに詰める2人に加えて、4台のロボットから送られてくる映像を監視する1人を配置する。つまり、合計3人の体制でまかなえることになり、人員を半減できる。実際のコスト効果については、それぞれの現場のオペレーションや、どのロボットを何台導入するかで異なるが、「ビルオーナーのコストダウン効果は大きい。例えば警備員を3人(月40万円×3=120万円)減らして、その代わりにロボットを4台(月20万円×4=80万円)導入すると月に40万円、年間480万円を削減できる」(Mira Robotics 代表取締役CEOの松井健氏)、「仮に警備ロボットの費用が月50万円だとしても、警備員を2人減らせればROIに見合う」(ALSOK 開発企画部開発企画課課長代理の丹野和友氏)としている。

 「ロボットには人と同じことはできない。でも、ロボットなら24時間立ち続けられる。ロボットを業務改善のお手伝いと位置付けて、ロボットができることに現場の作業を寄せる必要がある」。中村氏はロボット活用の要諦をこう説く。