2024年11月16日(土)にシンガポール国立大学で開催された「超異分野学会」にて、
「Borderless : Robotics x Infrastructure, Propelling Smart Cities Development」
というテーマで、日本とシンガポールにおけるスマートシティやロボティクスについてのパネルディスカッションが開かれました。
超異分野学会とは?
イノベーションは長らく「偶然:セレンディピティ」と「設計されたもの」の2つに分類されてきました。科学技術における人類の偉大な成果の中には、人々と概念の間の偶然の出会いによるものが数多く存在します。しかし、偶然的なイノベーションを積極的に加速させることは可能なのでしょうか?
リバネスは、学際的な研究が衝突し混じり合うことで、偶然的なイノベーションが生まれる可能性を最大化する環境を作り出すことを目指しています。
本カンファレンスでは、設計されたイノベーションと偶然的なイノベーションの背後にあるさまざまな状況をより深く掘り下げ、ベストなイノベーション環境を構築します。
名称 | 超異分野学会 in シンガポール 2024HIC in Singapore 2024Serendipitous or Designed: The Duality of Impactful Innovation |
日程 | 2024年11月16日(土)09:30~17:30 |
場所 | シンガポール国立大学(NUS) Create Theatrette, SMART Campus |
主催 | リバネス・シンガポール |
参加者 | 学術研究者、スタートアップ、大企業、製造業、政府機関、学生 |
URL | https://hic.lne.st/schedule/sg2024/ |
パネルディスカッション
「Borderless : Robotics x Infrastructure, Propelling Smart Cities Development」
- モデレーター
- Leave a Nest Singapore : MR. AMBROSE CHIA (Assistant Manager)
https://global.lne.st/offices/sg/
- Leave a Nest Singapore : MR. AMBROSE CHIA (Assistant Manager)
- パネリスト
- ugo : MR. HADRIEN ROY (Global Partnership Manager)
https://ugo.plus/ - WaveScan : DR. KUSH AGARWAL (CEO & Founder)
https://www.wavescan.sg/ - ST Engineering Venture : MR. MALCOLM CHUA (Head, Israel and China Offices)
https://www.stengg.com/en/innovation/st-engineering-ventures/
- ugo : MR. HADRIEN ROY (Global Partnership Manager)
Q: 日本やシンガポールの状況についてまずは教えてください。
【ugo】日本において、点検業務はすべて手動で行われているわけではありません。多くの企業の中で、40%はIoTを使用していますが、10%の企業がすべての設備を自動化しています。日本のインフラや建築デザインについては素晴らしい進化を遂げていますが、メンテナンスに関してはまだ進化中です。
進化する方法の一つは、海外の企業と協力してインスペクションやIoTの分野でより多くの経験を得ることです。
Q. WaveScanについて、シンガポールではどのようなインスペクションビジネスを行っているのでしょうか?
【WS】私たちはこの技術開発の最前線にいます。特にシンガポールにおいては、私たちは点検に関する制度を新たに構築しようとしています。シンガポールでは、制度を構築することは完全に禁止されています。(そこで私たちは香港などの国の制度監督機関とも協力したりしています。)
シンガポールには多くの建造物のアセットが存在していますが、それらは老朽化が進んでおり、点検に関する制度がないため、建築物をスキャンする必要性がありません。
そのため、私達は、住宅建築、商業建築、公共建築などを対象に検討してきました。ですが、シンガポールで浸透に時間がかかる最も大きな要因は「アーリーアダプターが少ないこと」です。ユーザーは、既に海外市場で実績のあるテクノロジーを探しており、既にエンドユーザーがいることを求めます。
そこで、シンガポール政府は、このような状況に対して、スタートアップやテクノロジー企業を支援してくれています。この制度構築を、エンドユーザーや建設業者、インフラ業者と共に取り組むことで、このギャップを埋めることができると思います。
日本はかなり昔からインフラが整備されていると感じており、それらの老朽化はシンガポールよりも進んでいると思います。シンガポールも(日本と)同じ状況になりつつあると考えています。
Q. 海外ではVCが多くの技術やソリューションについてリサーチをしていると思いますが、日本やシンガポールのような状況に対して、その他の国はどうでしょうか?
【ST】スマートインフラについて、世界を見ると、中国とアメリカがリードしているのがわかります。最近は、タイでも同じことが起きています。スマートシティの前線は非常に速く変化しています。
カードの支払いから顔認証、申請の届け出まで、シンガポールの人々は、手続きができているとパスポートが不要になり、顔認証で通過できます。
スマートシティ化の動きは速く、政府が指定した特区や重要経済地区での実現が凄まじいです。スマート水道メーターやスマート空調メーターなどは、既にプラットフォームが利用されています。他にもショールームなどで実装された実験的なものがありますが、そのような場で開発されたものが実用化されたアプリケーションはまだまだ少ないです。
ロボティクスについて、中国とアメリカの競争は続いています。人型ロボットは、生成AIなど基盤モデルの改善によって可能となっていますが、まだ現状に適したものには仕上がっていません。人型ロボットの計算能力はまだクラウドベースです。センサーと一体化されたパッケージはまだ存在していません。このようなことが世界中で見られます。
Q: ロボットに関して非常に興味深いテーマですが、「ロボットは人々に取って代わる存在」となるのでしょうか?ロボットによって仕事が奪われると考える人もいるかと思います。ただ、誰もそのような未来を望んでいるわけではないと思います。ロボットと人間の協働や、人間の仕事を代替することについて、現時点でのロボット技術にはどのような課題があるのでしょうか?
【ugo】このような質問はよくいただきます(笑)。少し歴史を振り返ってみてください。50〜60年前には「AIエンジニア」や「ロボットエンジニア」という職業は存在していませんでしたし、200〜300年前には車や航空機もありませんでした。技術が進化することで、新しい職業が生まれ、社会全体に新たな可能性をもたらしてきました。
現在は、まさにロボット革命が進行中です。その一方で、多くの人が「仕事が奪われるのではないか」と不安を抱えています。しかし、私はこう考えます。ロボットが一部の仕事を代替することで、社会全体の安全性や効率性が向上し、その結果として新しい価値や職業が生まれるのです。
一方で、ロボットのデザインや社会との接し方には注意が必要です。例えば、恐ろしい外見のロボットが街中を巡回し、人々を監視しているようでは、誰もその街に住みたいとは思わないでしょう。むしろ、人々が日常的に親しみを持てるようなフレンドリーなロボットが求められています。この方向性こそ、私たちが進むべき道だと考えます。
特に警備業界では、現在すでに多くの現場で省人化が進んでいます。しかし、例えば「警備員になりたい」という人が減少している現状があります。夜間に8時間歩き続けるような仕事は、誰もいない状況で何かが起こるリスクもあり、非常に負担が大きいものです。
ロボットはこうした業務を補完する存在として役立つことができます。例えば、ロボットが施設を巡回することで、建物の安全を確保し、危険な状況が発生した際の対応力を高めます。仮に犯罪者がロボットに危害を加えたとしても、それはある意味「ロボットが破壊されるだけ」で済みます。一方で、人間の警備員が危害を受ける場合、その影響ははるかに深刻です。このように、ロボットは人間の負担を軽減しつつ、安全性を向上させる重要な役割を果たせると考えています。
Q: 次の質問に移ります。ロボットは反応することができるのでしょうか?ただ、このテーマは別の議論になるかもしれませんね。みなさんのご意見をお聞かせください。
【ST】(会場に向けて)皆さん、チャンギ国際空港で警察ロボットを見たことはありますか?(挙手した人に)どう思いましたか?怖かったですか?
確かに、多くの人がそのロボットを「怖い」と感じるかもしれません。それは小さな自動車のようにも見えますが、果たしてそれを「ロボット」と呼ぶべきなのかは議論の余地があります。外見や機能によって、人々がロボットをどのように受け入れるかが変わるのは興味深い点です。
特にシンガポールでは、一定の省人化が進んでいる一方で、自動化とプロフェッショナルな業務のバランスが問われています。たとえば、建築検査のような分野では、人間が担当すべきタスクとロボットで効率化できる部分を見極める必要があります。インスペクションでは効率性やコスト、安全性などの要素が重要です。自動化が進む中でも、完全にロボットに置き換わるのではなく、人間の管理を含めたハイブリッドモデルが現実的だと考えられます。
また、中国市場についても触れたいと思います。中国では政府の主導によってテクノロジーの導入が進められています。たとえば、水素技術の開発では、国家主導の大規模な製造が行われています。このような国家的な取り組みは、中国がテクノロジー分野で先行する要因となっています。
一方で、こうした政策にはプラスとマイナスの側面があります。迅速かつ効率的に進む場合もあれば、他国との調和を欠いてしまうこともあります。しかし、中国は特異な市場であり、その進化は世界全体に大きな影響を与えています。
このように、ロボットや自動化技術について考えるときは、社会的な受容性や効率性、安全性といった複数の視点が重要です。これからのテクノロジー導入においても、それぞれの国や地域の特性に応じたアプローチが求められるでしょう。
Q: ありがとうございます。とても興味深い内容です。では、シンガポールや日本において、スタートアップに対する政府の対応について教えていただけますか?特にシンガポールや日本のスタートアップに焦点を当ててお話しいただければと思います。
【ugo】日本では、ロボット技術やIoT、AIといった分野での競争力を維持するために、政府が積極的にDXを推進しています。アウトソーシングや自動化に関連する取り組みも増えてきています。社会全体としても、ロボット技術を受け入れる土壌ができつつあります。特に、日常生活や業務において、複数のテクノロジーを組み合わせることで効率性や利便性が向上しています。こうした動きは非常にポジティブだと感じています。
一方で、シンガポール政府はさらにプロアクティブな姿勢を示しています。特に Enterprise Singapore や EDB(シンガポール経済開発庁) などの機関が、スタートアップの市場拡大やグローバル展開を支援する活動を行っています。これらの機関は、特定の国や市場に関連したスタートアップをターゲットにし、その成長をサポートしています。 また、シンガポール政府は、テクノロジー開発における特定の分野での競争優位性を見極め、そこに重点的に投資しています。これにより、新しい技術を発掘し、既存の課題を解決するだけでなく、さらなる競争力を生むテクノロジーを育成しています。このように、政府が積極的に関与することで、スタートアップが持つポテンシャルを最大限に引き出す仕組みが整えられています。
Q: シンガポールのスタートアップとしての視点はいかがでしょうか?
【WS】私たちはセンサー技術を扱う企業であり、自動化の活用を進めるためにパートナー企業と協力しています。また、ロボットのユーザーエクスペリエンスに関する専門知識を持つ企業としても活動しています。
政府の補助金を活用して、パートナー企業と連携しながら新しい市場を開拓しています。この補助金により、シナジーのあるパートナー企業のマーケットやリソースを活用し、より大きな成果を生み出すことが可能になっています。
Q: 日本ではどのような動きが起きていますか?
【ugo】はい、日本ではNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)をはじめとした補助金制度が活用されています。ただし、日本のビジネス文化には、過去に築かれた大企業が自らのビジネスを国内で広げ、国外での展開やコラボレーションをあまり積極的に進めてこなかったという背景があります。しかし、現在のスタートアップコミュニティは、この変化の時代を生き抜くために、グローバルなエコシステムへの統合が求められています。
例えば、EUREKA(欧州を中心とした研究開発・イノベーション支援機関のネットワーク)を活用することで、海外企業との共同プロジェクトとして申請することが可能です。この仕組みを使えば、プロジェクト全体の60〜70%を補助金で賄うことができる場合もあります。シンガポールにも同様の制度があり、日本のスタートアップがグローバル市場でのコラボレーションを進めるために利用することができます。
これらの補助金制度や国際的なネットワークを活用することで、スタートアップは単に国内市場に留まるのではなく、グローバルなビジネス連携を拡大し、新しい成長の機会を得ることが可能です。
最後に
このパネルでは、シンガポールと日本がどのように協力してロボティクスエンジニアリングの基盤を構築できるかについて議論しました。シンガポールは都市計画(アーバンプランニング)において強みを持ち、日本はロボティクスエンジニアリングの分野で優れた技術を有しています。この2国が協力することで、新しいスタートアップビジネスの発展を支える基盤が形成されるでしょう。
特に、東南アジアや世界市場に進出しようとする企業にとって、早い段階で海外のパートナーと連携することが鍵となります。このような国際的なコラボレーションが、持続的なイノベーションと成長を促進するのです。
時間の関係で議論を締めくくらせていただきますが、パネルで共有された考えは非常に重要です。政府はテクノロジー開発を社会全体の利益に結びつける役割を担っており、長期的な視点で取り組む必要があります。そのためには、政府だけでなくスタートアップや産業界、エコシステム全体の協力が欠かせません。
私たちは、一日でも早くスマートシティの夢を実現するために努力を続ける必要があります。新しいアイデアや実験精神を受け入れる社会こそが、最も早く進歩するでしょう。テクノロジーが進化し、成果を上げるためには、政府、ビジネス、そして市民の間に信頼関係を築くことが必要です。
シンガポールの多様性に富む社会は、このような取り組みの最前線に立っています。私たちは人々をさまざまな視点から結びつけ、大きな夢を共有しながら未来を築いていきたいと考えています。
最後に、テクノロジーは人々の信頼を得て初めて価値を持つものです。政府がスマートシティやロボットの導入を目指しても、人々の理解と支持を得られなければ、大きな反発を招くでしょう。しかし、政府が信頼を持って市民と共に取り組む姿勢を示すことで、不安を和らげ、より良い未来を実現できるはずです。現在では、スタートアップや技術革新を推進する多くの人々が、テクノロジーへの期待と信頼を高めています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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